

夢のなかで
ヒヤシンス姫は鍛冶屋が見た夢からはじまるバレー・パントマイムのポスターです。1910年に台本と曲が完成し1911年9月プラハの国民劇場で初演しました。
鍛冶屋が見た夢の中で娘のハニチカがヒヤシンス姫となって貴族や錬金術師など3人の求婚者たちとおりなす恋あり冒険ありのおとぎ話はかぐや姫の物語に似ていなくもありません。
バックの三日月形をしたフレームには鍛冶屋の道具、錬金術師の実験器具、貧乏騎士と城主の冠や魔法使いの怪物など舞台に登場するさまざまなものを飾ってストーリーを暗示しています。
赤い花
ヒヤシンス姫の頭を飾る赤い花はヒヤシンスです。手にはヒヤシンスの飾りのついた輪を持ち、ガウンや衣装にもヒヤシンスの装飾があります。ヒヤシンスの花はもちろん「ヒヤシンス姫」だからですがギリシア神話とも関連づけています。ギリシアはじめ地中海地方にはヒヤシンス(υακινθος)の花になぞらえて"ヒヤシンサス"という名の美しい王子の伝説や神話が伝わっています。神話でヒヤシンサス王子の血を受けた"ヒヤシンス"の花は紫色ですが血の色の赤に描くことがあります。(ただし、神話に出てくる"ヒヤシンス"は今の"ヒヤシンス"ではなくてユリ科の植物だとする説もある)
ノヴァーク(Ladislav Novák)作のこの『ヒヤシンス姫』とは全く別のものですがヒヤシンスの花にちなむ『ヒヤシンス王子』(ラング Andrew Lang 1844–1912)、『ヒヤシンス姫』(ハイド Florence Parry Heide1919-2011)という童話も世界中で親しまれています。
映画女優
ポスターのモデルはヒヤシンス姫を演じるアンドゥラ・セドラチコヴァー(Andula Sedláčková 1887-1967)。彼女はチェコでもっとも有名な女優です。シェイクスピアやオスカー・ワイルドなどの劇を多く演じた名女優だったのでサラ・ベルナールにたとえる人もいます。映画監督と結婚し、後にヨーロッパ初の映画女優としても活躍します。
チェコのまなざし
チェコ時代のミュシャのポスターにはこちらをまっすぐ見つめる少女が描かれています。ヒヤシンス姫のポスターはセドラチコヴァーの美しい青い眼が瞳の虹彩まで丹念に描かれていてたいへん印象的です。
ミュシャとともに
ミュシャの墓はチェコを代表する芸術家や文化人が眠るヴィシェフラッド墓地にありセドラチコヴァーも「ヒヤシンス姫」の作曲者オスカー・ネドバル(Oskar Nedbal 1874-1930)もミュシャと共にヴィシェフラッド墓地に眠っています。
オスカー・ネドバル
(1874-1930)
チェコスロヴァキアの切手
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アンドゥラ・セドラチコヴァー
(1887-1967)
1968年11月、チェコスロヴァキアはミュシャの『ヒヤシンス姫』の切手を発行した。
同じ年の12月、ミュシャがデザインしたチェコスロヴァキア最初の切手の復刻を"切手記念日"に発行。1968年はチェコスロヴァキアが進めていた「人間の顔をした社会主義」改革運動がソ連主導のワルシャワ機構軍の武力介入によってつぶされた年。
こちらを見つめる少女の眼はチェコ時代ポスターの特徴。
瞳の虹彩を細かく描くだけでなくキャッチライト(瞳に映りこませた白い光)を入れて表情をより印象的にしている。
ヒヤシンス姫
リトグラフ 1911年
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