『リュション』 観光ポスター
『リュション』は、スペイン国境に近いピレネー山中の温泉保養地「リュション」へ観光客を誘うパリ=オルレアン鉄道のポスターです。フランス王立医学会発行の1782年版温泉効能リストにも掲載しているリュションはカジノと浴場施設の豪華な建物を18世紀後半に建設し、貴族や高級軍人を呼び込んで成功につなげたようです。ポスターに描かれているこの建物は現存しています。
美しい町の眺望を「ピレネーの女王 La Reine des Pyrénées」と呼んで、町を囲む10以上もある峰々を馬で巡り、眺める場所によって、また刻々と変化するパノラマを楽しむツアーでも湯治客を呼び込みました。ベレー帽と民族衣装を着た乗馬の男がその魅力を伝えています(「バスクの民俗だったベレー帽がピレネーに伝わり、ピレネーを好んだ画家と軍人から世界へ広まった)。ミュシャだけでなく、リュションの観光ポスターにはこうした乗馬姿と山から見おろす町の風景を描いているものが多くあります。足元に咲く花「シクラメン」の名前は「回転」、「旋回」を意味するギリシア語の「キクロス」が語源で、パノラマを巡るイメージを伝えています。
『リュション』のポスターは、女性を描いていないのとミュシャのサインがないため、カタログやオークションなどでグラッセ作とかタマーニョ作などと間違って紹介しているものがあります。しかし、描線の特徴などからミュシャの作品であることにに間違いありません。さらに『リュション』の下絵をミュシャが手元に保管していたこと、それが子息のイジー・ムハから土居君雄さんに譲られて、現在も土居君雄コレクションに伝わっており、ミュシャの手になることは確かです。(右側枠内の「カジノ」と「浴場」は、リトグラフ職人が写真を参考に描いた。タマーニョ、シャムゼーのポスターでも建物は職人が描いている。)
『リュション』ポスターの下絵(1895年)
土居君雄コレクション
『リュション』(1895年)
『リュション』(1890年)
F.タマーニョ
『リュション』(制作年不詳)
P.シャムゼー
『リュション』(1922年)
R.スビエ
『リュションの花まつり』(1890年)
J.シェレ